市場とコミュニケーション

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付 微

 先月、大野の朝市へ行きました。そこに着いて、はじめに目に映ったのは、たくさんの人々が道を歩きながら買い物する日本ではまれな場面でした。とてもにぎやかでした。それから、人と人の買い物したり、売ったりするときの笑顔でした。それを見て、中国の故郷の市場を思い出しました。そして、故郷の市場を思いながら、買い物を始めました。そこで祭りのときだけ買える焼きトウモロコシや綿あめを買おうとしたとき、「ポン!」と爆弾が爆発したような音が耳に入りました。そこへ行ってみたら、たくさんの人が良いにおいを放っている煙を囲んでいました。小柄な私はそれを見て、何か知りたくなって、人込みを押しのけて中に入りました。米ふかしだと思ったら、案の定でした。昔の米ふかしの製造機が目に映りました。ますます故郷が懐かしかったです。

 私の故郷は遼寧省瀋陽市から、車で三時間もかかる小さい町です。小さい町というより田舎と言ったほうがふさわしいです。吉林省と境を接するところにあります。そこは、高句麗最盛期の好太王の碑が近くにある場所なので、朝鮮人がたくさんいます。そこの市場は旧暦の一のつく日と六のつく日、つまり五日に一回あります。市場が立つ日は商売の人は朝早く起き、商品を用意して車に入れます。そして、決められたところに商品を並べます。私の故郷には海がありませんが、ダムがたくさんあります。市場が立つ日は、漁師は前の夜にダムに打った網を朝早く引きあげます。そして、新鮮な魚を持って、市場で売ります。魚が好きな人々は市場が立つ日、おいしい魚が買えるので、とても喜びます。魚料理が得意な父も、いつも新鮮な魚を買って、家でおいしく作ります。大きな鯉を買ったら、おまけに小さい鯉を無料でくれるときもあります。市場がもう少しで終わるときには、漁師に「もう少しで市場が終わるから、全部の魚が売れないともったいないな。まけてくれれば全部買いますよ」と言ったり、漁師は「朝早く起きて網を引きあげるのは大変だし、今は魚がなかなかとれないんだ」と言ったりします。私の家も商売しているので、「うちで買い物するとき、安くしてあげるよ」と言ったりし、お互い交渉して、自分の利益を考えて漁師は残った魚を半額にしてくれます。そうすると、漁師は残った魚を捨てる必要がなくて、買うほうもお得だと思います。

 そして、朝鮮人のおばさんたちは、民族の代表的なおもちやキムチを持って市場で売ります。漢族と朝鮮族が混ざって住んでいて、普通は標準語で話します。自分の民族のお客さんと話すときは朝鮮語を使います。でも、漢族のお客さんと話すとき、標準語で表せないときがあります。そのとき、手真似を交えて話したり、朝鮮語で話したりしてしまいます。そのとき、双方は困るわりに、楽しくて笑ってしまいます。もしいつも同じおばさんの漬物を買うと、友達になります。いろいろなキムチの作り方を教えてもらえます。そして、朝鮮族の習慣を理解できますし、簡単な朝鮮語も話せます。市場は一見すると、物を売ったり、買ったりするところですが、実は人と人がお互いに交流できるかけ橋とも言える場所だと私は思います。

 日本のスーパーは故郷と違って、お客さんはただ買いたい物をカゴに入れて、レジに持って行って支払いするだけです。お客さんと店員はまったく話をしないわけではありません。たとえば、スーパーでお寿司を買ったとき、「お箸がいりますか」と聞かれて、「はい」「いいえ」のような簡単な会話はあります。しかし、これ以上は話しません。日本人の生活のリズムは早いので、きっとちょっと話すだけで余計なことで時間がもったいないと思っているのかもしれません。私としては人と人が接しているのにとさびしく感じます。

 私が中国にいるときは、家の前に市場が立ちました。普通は便利だと思いますが、私にとっては、市場が込み合っていて、にぎやかすぎて、とてもうるさいと感じていました。日本へ来たばかりのとき、スーパーで買い物していると、流れている音楽だけ聞こえます。本当に静かです。私は日本に住んで、二年になりました。時が経つにつれて、日本はどこでも静かで、好きになったというより慣れてきました。しかし、先月、大野の朝市へ行って、人々が話しながら買い物するのを見た後で、日本のスーパーで買い物すると、なんとなく物足りなく感じました。再び故郷の市場を思い出し、改めて、買い物をするときのコミュニケーションの大切さを感じました。物を売る人から直接買い物ができ、信用できますし、品物の質の心配もいりません。そして、会話をしながら物を買ったり売ったりすることに、文化の交流や、人と人の心の交流があって、心が豊かになります。人と人は助け合いながら、生きているのがよくわかります。市場は単なる商売するためではなく、人と人のコミュニケーションに役立っているものの一つだと思うようになりました。

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