福井で感じた運命・ひらめき・親子の愛

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Benjamin Willey
(ベンジャミン ウィリー)

 私の好きな和製英語の一つは、「スキンシップ」です。親子の間の肌と肌との触れ合いは、愛を示し、愛を確かめ合う効果があると思います。しかしどうやら、子供が小学生になると大切な「スキンシップ」から卒業してしまうようです。

 私は実家に帰り、母と久しぶりに会うとまず抱き合います。英語ではハグと言います。実家にいる間、毎日何回も母が「ハグ欲しい!」と言い、抱き合ってくれます。私だけではなく、多くのアメリカ人は、「スキンシップ」から卒業していないのです。

 しかし日本に来て、半年暮らしても、抱き合う人を一人も見かけませんでした。気になり、大阪出身の友人に聞いてみました。「実家に戻るとき、ご両親と抱き合うよね」と私が言ったら、「なにそれ。抱き合わへんわ」との答えでした。「じゃ、何をする?」「何もせえへんで。『ただいま』というだけや」。

 大変驚きました。抱擁もキスもせず、「ただいま」「おかえり」という挨拶しか交わさない日本人は、私の目にはよそよそしく見えました。友達とこの会話をした後、絶対こんなに冷たい日本人と結婚しないと誓いました。

 その時は出版社に勤めていましたが、2005年の8月に転職し、福井に来ました。ちなみに、関西に近いから、方言も関西弁に似ているのではないかと甘く考えていましたが、体調が悪いときに定食屋のおかみさんに「どないした?てきねえんか?」と聞かれて、さっぱり分かりませんでした。その後、おかみさんは「もつけねえ」や「のくてえ」など、いろいろな面白い表現を教えてくれました。

 おかみさんに福井弁を教わる日々を送っていた私に、思いがけず、不思議な縁がありました。私が務めている国際交流協会に、中国人国際交流員の孟さんと、韓国人研修生の金さんがいましたが、その2人は貴代美という日本人と3人でよく一緒に遊んでいました。10月のある休みの日に、一緒に白川郷に行かないかと私を誘ってくれました。白川郷を見てから、金さんのアパートにブラジル人の研修生も呼んで、皆で晩ご飯を食べることにしました。

 その国際的な雰囲気の中で、人生を変えるような運命を感じました。一日中一緒に遊んでいたので、一目惚れではありませんでしたが、隣に座っていた貴代美を見たときに、「この人と結婚したいなぁ」という想いが自然に湧いてきました。

 「出会ったばかりの人に対して、そんなことを考えるなんて。。。のくてえ!」と自分の気持ちを抑えてみましたが、その感情はただの気まぐれではなかったようです。それから8ヵ月後、結婚式を挙げることになったのですから。

 「抱き合うことのできない、冷たい日本人と結婚するもんか」と言っていた私が、福井で感じた「運命」のお陰で、幸せな家庭を持つようになりました。(ちなみに、私の衝動的な思いにひきかえ、妻の第一印象は、「変な外人」ということだったそうです。考え直してもらって、良かったと思っています)。

 これで、「日本人と結婚しない」という私の固い考え方が和らいだとはいえ、「日本人の親子の間に愛がない」という偏った印象を持ったままでした。結婚後、妻の実家に一緒に行く度に、「ただいま」と「お帰り」とのやり取りを聞き、「さすが、冷たいな」と思いました。

 しかし、帰り際に、妻の両親とおばあちゃんが必ずする、ある質問に引っかかりました。「米はあるんけ?」実は、妻の両親は兼業農家で、野菜や果物、そば、お米などを作っています。もらった20キロの米俵を担ぎながら、「お米はいつももらうんか」と妻に聞いたら、「スーパーで買ったことがない」と何気なく答えました。くわやすきを一度も手に取ったことのない私には信じがたいことでしたが、結局妻の実家は、「レジのないスーパー」のような所だと分かりました。行く度に、「米はあるんけ?」「このキュウリを持っていきね」「味噌をどうぞ」といった具合に、次から次へ食糧などをくれます。一番驚くのは、自分のためにスーパーで買った物さえ、惜しまずにくれるということです。

 何十キロの米俵を持ってかえってから、3日後実家に行った時でした。「米はあるんけ?」とまた聞かれました。正直言って、「3日間であんなにぎょうさんの米、食えるもんか。何でこんなにくどくどと聞くかな」と思いました。そのとき、ひらめきを感じました。「これだ!ハグの代わりに、これで親子の愛を示しているのだ!お米が十分あると知りながら、『米はあるんけ』と聞くのは、お米の有無ではなく、『心配しているよ。愛しているよ』ということを伝えているのだ」と悟ったのです。

 「例え国が違っても、人情には代わりがない。親子の愛に、代わりはない。そして、日本人は決して冷たくない。」これは、福井での経験を通して学んできたことです。11月に長男が生まれましたが、子育てに当たって、母親に教えてもらった大切なハグに、妻の実家で見た「物質的な愛情」を組み合わせること、つまり「和洋折衷」を目標にしたいと思います。

 ご清聴、ありがとうございました。

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