関西空港から福井行きの電車に乗りながら、福井大学から僕のアメリカの大学に留学しているアキさんから聞いた、福井のことを考えていました。
　「福井はあ、ひっでもんに、平和でいいとこやざ。ほやけどお、辞書でいなかの意味を調べるとお、福井の景色が出てくるんやわ。ほんでえ、最初は分かりにくいかもしれんけど、福井の人はなかようなったら、ひっで、いい人やざあ。」

　アキさんが教えてくれたことを思い出しながら、「福井っていったいどんなところなんだろう」と考えました。しかし、電車に乗っている間「僕は本当に福井で暮らすことができるだろうか」とだんだん心配になってきました。でも、そんな心配は、福井に着いてすぐに消えてしまいました。なぜなら、僕が想像していたいなかのイメージと、いなかと言われている福井のイメージが違ったからです。一言で「いなか」と言っても、人によって意味がかなり違います。僕がアメリカで住んでいるところ、サウス・カロライナも静かで平和なところです。東京のような都会ではなく、暮らしやすくて、勉強のしやすいところです。そんなサウス・カロライナに僕は住んでいますから、僕は「いなか」に住むことに慣れているのです。

　僕は大学の先生に留学を勧められたこともあり、日本で勉強することに決めました。留学することを決めてから、どこで勉強したら一番よく学ぶことができるかを考えました。実は、去年東京に留学した友達がいます。彼女は東京で楽しい時間を過ごしたけれど、まわりに英語が話せる人が多かったせいで、日本語でしゃべることがあまりなかったそうです。だから、せっかく留学したのに、日本語があまり上達しなかったのです。それで東京のような都会に行くのはやめて、他の所を探すことにしました。そのことをアキさんに話すと、
　「福井にはあ、あんま、金髪や、青い目の人はえんし、いいとこやざあ。ほやけどお、別の意味で困ることもあるかもしれんけどお。まあ、がんばれや。」
と言われました。

　僕はそのときまだ、この「別の意味」がよく分かっていませんでした。しかし、その環境なら、よく日本語を勉強できるかなと思いました。それで、福井に留学することに決めました。

　福井に来てから、大学で日本語の授業を取ったり、福井の伝統産業を見学しに行ったりしています。もちろん、日常生活も楽しんでいます。例えば、週一回他の日本人の学生とサークルでバスケットボールとかバレーボールをしています。最初は僕一人しか外国人がいなくて、参加している日本人にゲームのこと以外あまり話してもらえませんでした。ある日、バスケットの試合の時に知らないチームメートに
　「同じチームなんだね。僕はあっちで試合にでるけどがんばろう！」
と元気に言ったけれど、彼は
　「うん。」
しか言ってくれませんでした。ちょっとがっかりしました。東京や京都だったら、外国人はあまり珍しくないですから、外国人に話すのは恥ずかしくないけれど、福井は東京や京都に比べると外国人がずっと少なく、外国人の扱いに慣れていないのかもしれません。アキさんの言った「別の意味」とはこのことだったんだと、ようやくわかりました。いろいろなところで、じろじろ見られることもあります。でも、何度も会ううちに、みんなだんだん僕がいることに慣れてきました。僕をあまり外国人だと感じなくなったのかもしれません。徐々に会話が長くなって、仲がよくなっていきました。ある晩、チームメートに飲みに誘われました。その夜は、ざっくばらんにいろいろな話が出来て、楽しかっただけじゃなく、いい日本語の勉強にもなりました。また、福井に住んでいる普通の人の生活が少し分かった気がしました。最初に教えてもらったのは、日本人のお酒の飲み方でした。それは飲み会の時の話です。僕はグラスにビールをつるつるいっぱい入れてもらいました。僕はとても、喉が渇いていたので、うれしくてすぐ飲もうとしたら、
　「あかん！ちょっと待って。」
とそばにいる友達に言われました。
　「なんで？」
と聞いたら、
　「先輩のグラスが空いているで。」
とこっそり教えてくれました。その時、先輩はじっと僕を見ていたのです。つまり、日本では自分のビールを飲む前に、他の目上の人のグラスが何も入ってなければそのグラスにビールを入れなければならないということを僕はこの時学んだのです。とても習慣の違いを感じました。そしてそんなことを全然知らない僕に、親切に教えてくれる友達にとても感謝しています。

　まだ福井に来て4ヶ月なので、これからいろいろな日本の習慣や文化を学ぶことがあると思います。福井は東京のようにでっかいビルや、はでなバーがいっぱいないけれど、その隠れている福井の面白さは、ちょっと福井に来ただけでは味わえないかもしれないけれど、やさしい人々や平和な景色の中で、僕は楽しんで福井で暮らしています。