講評

福井大学留学生センター教授
審査委員長 今尾 ゆき子

 今日は37名の応募の中から選ばれた12名ということで、どのスピーチもすばらしく、記念すべき第1回弁論大会にふさわしいものでした。お一人ずつ簡単に講評を述べさせていただきます。

 トップバッターは、日本語を学ぶために東京ではなく敢えて「いなか」の福井を選んだマシュウ・バークハードさんでした。アメリカの大学で福井の学生から教わった福井弁を交えて、学生生活を本当に楽しそうに語っていただきました。「福井の隠れた面白さは住んでみないと分からない」という殺し文句をうれしく聞きました。

 2番目の王玉艶さんの「私が見た日本人」は、福井で出会った人々への感謝の気持ちにあふれたスピーチでした。魯迅の小説「藤野先生」の子孫に日本語を習っているという王さんは元気いっぱいで、アルバイト先で生き生きと働く様子が目に見えるようでした。

 3番目、英語指導助手シュー・ハフナーさんの「『グッ』と力を入れて『パッ』とはらう」は書道のお稽古の話でした。オノマトペ(擬態語・擬音語)は外国人にとって難しい言葉ですが、身振り手振りも豊かなハフナーさんのスピーチは臨場感がありました。

 4番目は敦賀高校最初の外國人で、韓国ソウルからの留学生、郭(かく)榴(ゆう)娟(やん)さんです。「おしりにタコができるほど」勉強した榴(ゆう)娟(やん)さんの、「日本語を覚えていくにつれて性格が明るくなっていった」とおっしゃったのが印象に残りました。当に、「始めに言葉ありき」であることを、実感致しました。

 5番目、中国の楊h曄さんは、犬の散歩がきっかけで親しくなった隣のお母さんとの付き合いから、「世代や国や文化が違っても人は仲良くなれる」と力をこめて主張されました。「ほかの国の暗い面だけを見るのはやめませんか」というヤンさんの訴えに肯かれた方も多かったのではないでしょうか。それは簡単なようでいて難しいメッセージでした。

 前半の最後、6番目は南米チリ出身のロース・ミリエ・オヘダ・ベガさんでした。13才で日本に来て日本語が分からず苦労したこと、頑張って日本語の3級に合格したけれど高校に入れなかったこと、失意の中で合気道を始めて日本人に対する考え方が変わったことなどを話していただきました。「あきらめないで」「負けないで」という自らを励ますロースさんの言葉が心に残りました。

 7番目、ドイツのヴァイス・トビアスさんのスピーチは福井暮らしで経験した「小さな出来事」を軽いタッチで取り上げたものでした。文化や習慣の違いから経験する様々なことを大きな失敗や深刻な悩みではなく、「小さな戸惑い」と捉えたこと。それをユーモアで受け止める絶妙のスタンスから、異国で気楽に暮らす術を教えられた気がします。

 8番目は日本人男性と結婚した中国の郭春英さんの「方言の物語」でした。嶺南センターでは標準日本語、家ではお姑さんから方言と、二つの日本語と取り組んでいる毎日を話されました。「ちょっと聞いての」で始まった「嫁と姑」とのやりとりは、なかなかのものでした。

 9番目のベンジャミン・ウィリーさんは日本人女性と結婚したアメリカの方で、日米の愛情表現の違いを流ちょうな日本語で語っていただきました。「ハグほしい」と抱き合う直接的なアメリカ人と言葉や態度でなかなか愛を表せない日本人。奥さんの実家へ行く度に食べ物をもらっているうちに、「モノに託して」愛を示すのが日本人のやり方だと悟るに至ったという幸せな新婚生活の話でした。

 10番目は中国の丁燕さんです。異国の地日本で、大学院の研究、子育て、お勤めと一人何役もこなしてきたスーパーウーマンです。いくつかの困難を乗り越えられたのは、友人や先生、そして医療や子育て支援など充実した福祉制度のおかげだと、福井に対する感謝、感謝のスピーチでした。  11番目、グレッグ・ワーナーさんの「日本で一番学んだ事」は「自分自身について分かったこと」だというものでした。外国へ行くと自国のことがよく分かると言います。英語指導助手のグレッグさんにとって、福井で「教えることは学ぶこと」の毎日なのでしょう。いろいろ学んで得た最たるものが自己発見だったという発表に、他国で学ぶことの意義を再認識させられました。

 最後は、モンゴルのイシドルジ・バヤルマさんのスピーチ「福井で経験したこと」でした。福井の男性と結婚して6年。小学校でモンゴル事情について講演したり、ラテンダンスを習ったりと積極的な活動を展開する中でエアロビクスのインストラクターという天職を見つけるまでを面白おかしく話してくださいました。話し上手でその語り口には華がありました。

 今回ご出場下さった方々は、プログラムにもありますように、国も職業もいろいろ、年齢も17才から36才までと、実に多士済々でした。当然のことながら、「福井で経験したこと」も様々でしたが、困難と向き合いながら福井の地にとけ込んでいった「逞しさ」という点で共通するものがありました。その明るく力強い生き方から、私たちは知らないうちに元気をもらっていたのだと改めて気づかされました。それぞれに持ち味が出ており、審査員一同、優劣をつけるのに苦労致しました。以上、私の感想をもって講評と致します。スピーチして下さった皆さん、どうも有り難うごさいました。

審査結果

表彰番号名前国籍所属
最優秀賞9Benjamin Willey
(ベンジャミン ウィリー)
米国福井県国際交流員
優秀賞12Ishdorj Bayarmaa
(イシドルジ バヤルマ)
モンゴルエアロビクスインストラクター
優秀賞11Gregory Werner
(グレゴリー ワーナー)
米国ALT(大野東高校)
特別賞5楊 h曄
(ヤン チィエ)
中国福井大学生
特別賞7Weiss Tobias
(ヴァイス トビアス)
ドイツ福井大学生

審査員

  • 審査委員長今尾 ゆき子(福井大学教授)
  • 審査員四戸 友也(福井新聞社論説主幹)
  • 審査員豊岡 猛(福井テレビ報道部専任部長)
  • 審査員竹内 和代(国際ゾンタ福井ゾンタクラブ会長)
  • 審査員栗田 幸雄(福井県国際交流協会会長)
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